大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和31年(あ)3426号 判決

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人永井太三郎の上告趣意第一点、同弁護人武藤鹿三の上告趣意第一点は、判例と相反する判断をしたというけれども、本件においては被告人長谷川につき事実及び違法性の認識があったと認められるから、引用の判例は何れも適切でなく、所論は理由がない。

弁護人小野清一郎、同竹内誠の上告趣意第一点は、本件において名古屋税関長が通告処分をすることなく直ちに検察庁に告発したことは違法であって、憲法三一条に反するというのであるが、本件において税関長は被告人長谷川に対し旧関税法九七条により懲役刑に処するのを相当と思料して直接告発したものであることが記録上明らかであり、このことは後に罰金に処する旨の判決があったことによって遡って違法となるものではなし、また会社のために行為した者につき右事情がある場合に、その会社に対しても通告処分をすることなく告発をしても、事実認定の統一、量刑の適正の見地において却って相当と認められるから、右告発は適法であり、従って違憲論はその前提を欠く。

同第二点は、逋脱犯は身分犯であって、これに対しては刑法六五条一項により共同正犯を認めることができないというのであるが、原判決の判示するとおり本件における納税義務者が米兵ジヤラミロであって、被告人長谷川は被告会社のためにこれと共謀して便宜を図ったに過ぎないものであるとしたところで、刑法六五条第一項は身分犯にも共同正犯を認めた趣旨であること当裁判所の判例(昭和二五年(れ)七六六号同二六年三月一五日第一小法廷判決、昭和二四年(れ)二六四八号同二五年九月一九日第三小法廷判決)であるから、被告人長谷川らに共同正犯の成立を認めたのは正当である。

その他の所論は判例の趣旨と相反するとの主張もあるが、結局何れも事実誤認、これを前提とする法令違反、訴訟法違反、量刑不当の主張に止まる。また記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 河村大助 裁判官 奥野健一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例